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東京書芸学園スタッフブログ

文字の喜怒哀楽

2014/08/15

こんにちは、指導部の村上です。


厳しい暑さが続きます。
猛暑、炎暑、酷暑など厳しい暑さを表現する言葉は幾つかありますが、日本には季節を表現する雅称なる言葉があるようです。私も先ごろ伊予の方から教えられて知ったばかりで、聞きかじりです。それによると、

朱明、朱夏、昊天、昊蒼、塊序、炎序、炎節

など、夏を語感で表しています。

「炎」は、この頃の燃えるような暑さにはぴったりの文字であり、「朱」もまた夏を色に例えた繊細な表現です。夏を単に赤といってしまっては稚拙で、朱というところに微妙な趣と季節感を含んでいます。先人の感覚にはまったく驚きです。何千という色の言葉を持つ日本語ならではないでしょうか。



喜怒哀楽


さて、町の文字と題して何度かここにいろいろな文字を見ていただきました。今回は表情を持った文字ということでもないのですが、喜怒哀楽に見える(?)町の文字を見てください。


< 喜 >


これは箱根へ行ったときに撮影したものですが、団子屋さんの暖簾です。「雲助」とは駕篭かきのこと。暖簾にも籠の絵が描かれています。駕篭かきの人が、途中でお腹の足しに団子を食べたのかもしれません。行き先へ早く着かなければならないので、食事している暇はなく、団子をかじって頑張ったのかもしれません。箱根の山はしんどかったと思います。
暖簾の「雲」の文字ですが、なにか急いでいる様子が伝わってくる形をしています。それも少しずっこけ気味で愉快な感じです。駕篭かきはきつい仕事だけど、へっちゃらさ、と笑い飛ばしているようです。


< 怒 >


「雷神堂」という煎餅屋の屋根看板です。昔からのお店で看板が古びています。怒になっているかどうか自信はありませんが、雷の文字が目を顰めているようで、どことなく怒。そんな感じには見えないでしょうか。



< 楽 >


これは手ぬぐい屋の看板です。板に「てぬぐい」と書いていります。しかし、てぬぐいが楽しい文字ということではありません。楽しいのはその左に立っている木製の灯篭でしょうか、そこに文字らしきものが三つ書かれています。なんと読むかおわかりでしょうか。
写真を拡大していただけるとわかります。

一番上は絵で、鎌です。

二番目は、ぐるっと輪っか。

三番目は、ひらがなの「ぬ」
「かまわぬ」と読みます。

初めてこれを見たとき、最初は「へ」かなと思ったのですが、よく見ると絵なのでピンときました。文字遊びをしています。これが屋号とは、まあ、よくつけたものだと思います。



最後に< 哀 >


これが一番難しかったです。
悲しそうな文字なんて、あるような、ないような、そこでこれを選びました。
東京根岸にある神社の一角に、だいぶ年月を経た絵馬がさがっていました。ここに願い事が書かれていたのだと思いますが、それはもう消えてしまって、墨文字だけが残っています。しかも絵馬の表面が古びて文字がやっと読める程度になっています。

なぜこれが、哀なのか。


物事には陰陽があり、歳月を経ると陰影が深く刻まれてきます。生まれたばかりの赤ちゃんに陰影はありません。しかし年を重ねると人は相に陰影を刻んで人格を形成します。文章や文字にも陰影を含むことがあります。絵馬の隅に小さく古びたこの文字に、飾らない地味な姿にそうしたものがあるように思えたのです。
陰影を刻む、それは哀に通じるものとして、ここに並べました。

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