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夏目漱石と森鴎外の坂道

2015/06/05

こんにちは。指導部の村上です。
このところ急に暑くなってまいりましたが息災と存じます。
息災なんていうと古い言葉で、今はほとんど使われませんね。明治の頃は使われていたでしょうか。



明治の文豪といえば、夏目漱石と森鴎外です。
どちらの作品も一度は読んだことがあると思います。



さて、二人のゆかりの地に東京の本郷、千駄木、根津があります。
その中の根津神社を挟んで、二つの坂道が二人に所縁があります。
まず漱石に所縁の坂が「根津裏門坂」です。




「吾輩は猫である」はここで書かれたといいますから、まさに名所ですね。
漱石も書をよく揮毫したといいます。晩年の「則天去私」は漱石の思想の上での有名な言葉で、その書も残されています。一度は目にした方も多いと思います。



もう一つの坂道が「根津S坂」。新坂、また権現坂ともいい、根津神社の旧称が「根津権現」ですからそこから因んでいることが分かります。
この坂は鴎外の「青年」に登場します。



余談ですが坂道はどういうわけか趣きを感じます。平坦な道はただの交通手段ですが、少し傾斜がつくと何かそこに生活感が生じて、人の姿を見出すからでしょうか。
「青年」の一節に「地図では知れないが、割合に幅の広い此坂はSの字をぞんざいに書いたように屈曲して...」とあるところから、S坂と呼ばれるようです。



S坂を登っていくと、石の欄干というか石柵というか、それが折れ重なって、神社を囲むように巡っていました。



神社ではよく寄進者の芳名が欄干に刻されていますが、これもそうなのでしょうか。石の欄干に文字があります。石肌が剥落してどなたのもか一向存ぜぬ(漱石調)。けれども、きりっと引き締まった楷書が凛としてそこにある(鴎外調)。


損傷を受けようとも、胸を張った姿勢を崩さない真っ直ぐな文字がじつにすばらしい楷書です。



人の眼に触れることのないところでも姿勢をくずさない。
なにか文豪に通じる一面のようで、身の引き締まる文字でした。


では失敬。

縁あらばまた他日。

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